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京都地方裁判所 平成7年(ワ)350号 判決

原告

山田陽子こと姜福姫

被告

岩本和美こと李和美

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、金一六一一万一八二二円及びこれに対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し、金七七〇〇万円及びこれに対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実並びに証拠(甲一、乙一ないし四、乙一〇(各枝番含む。))及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実

1  平成四年三月一日午前二時三二分頃、京都市伏見区深草下川原町五一の三先路上(国道二四号線)において、被告岩本秀一こと李秀一(以下「被告秀一」という。)の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が南行直進中、車道を横断しようとして中央線付近に佇立中の原告と衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生し、被告秀一は、事故後、救護通報を怠つて逃走した。

2  原告は、本件事故により、全身打撲、胸部擦過傷、脳挫傷、右撓骨近位端骨折、右膝顆間隆起骨折、右脛骨腓骨開放性骨折、左足関節内果外果骨折の傷害を負い、その治療のため、平成四年三月一日から同年六月一〇日までと平成六年二月二三日から同年三月五日まで合計一一三日間入院し、平成六年四月一一日まで二二カ月間通院(実日数二七日)し、平成六年四月一一日、右足関節運動制限、左足関節運動制限等の後遺障害を残して症状固定し、自賠責保険により後遺障害等級併合九級の認定を受けた。

3(一)  被告秀一は、本件事故につき、前方不注視の過失があり、不法行為責任を負う。

(二)  被告岩本和美こと李和美は、被告車の所有者であり、本件事故につき、運行供用者責任を負う。

4  原告は本件事故による損害のうち、治療費七四万三九八四円、装具代四万二一〇九円、眼鏡代八万六五二〇円、その他八二二万七九二〇円の合計九一〇万〇五三三円の補填を受けている。

二  本件の争点

1  過失相殺

2  原告の損害(特に、休業損害・逸失利益算定の基礎となる収入額)

第三当裁判所の判断

一  過失相殺について

1  証拠(甲二ないし二四(枝番含む。)、原告本人、被告秀一本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、片道二車線、車道幅員約一五メートルの南北道(国道二四号線)であり、北行車線は、ガス工事のため、一車線となつているが、直線道で見通しはよい。また、本件事故現場の約五〇メートル北側に横断歩道があつて、本件事故現場付近は横断禁止とされている。なお、本件事故当時は、深夜で交通量は少なかつた。

(二) 原告は、知人と四名で南行車線東側歩道でタクシーを降り、道路西側の居酒屋に行くため、本件道路が横断禁止であることは知つていたが、近道をしようとして、道路の横断を始め、同行者の一人が遅れていたので後ろを振り返つて呼ぼうとしたところ、センターラインから南行追越車線側に約八〇センチメートルの位置で、被告車と衝突した。

(三) 被告秀一は、南行追越車線を時速約四〇~五〇キロメートルで進行中、灰皿をみる等して前方注視を怠つていたため、原告らが道路を横断中であるのに全く気が付かず、衝撃により衝突に気付いたが、免許停止等の処分を受けることをおそれて、事故の状況等を確認することなく逃走した。

2  そこで右事情をもとに検討すると、本件事故の原因としては、被告秀一の著しい前方不注視に主な原因があるというべきであるが、他方、原告においても、横断禁止の幹線道を深夜に横断していたことに相当大きな過失があり、本件の諸事情を総合考慮すれば、本件の過失割合は、原告三〇パーセント、被告七〇パーセントと評価するのが相当である。

二  原告の損害について

本件事故による原告の損害については、前記の治療費七四万三九八四円、装具代四万二一〇九円、眼鏡代八万六五二〇円の他、次の通り認められる。

1  入院雑費 一四万六九〇〇円(請求額一五万八二〇〇円)

前記入院日数一一三日について、一日当たり一三〇〇円の範囲で理由がある。

2  通院交通費 三万一三二〇円(請求額同額)

証拠(甲三三の1ないし3、三四、原告本人)及び弁論の全趣旨により認められる。

3  子供世話代 六万五〇〇〇円(請求額二〇万円)

証拠(甲三二、原告本人)によれば、原告は、本件事故による入院のため、未就学の幼児と小学生の二人の子供を知人宅に預ける等して一三、四日間世話をしてもらい、その謝礼として一八万円を支払つたことが認められ、一三日間について、一日当たり五〇〇〇円の範囲で因果関係を認めるのが相当である。

4  休業損害 七一一万一四〇八円(請求額二二二一万三五二七円)

(一) 証拠(甲二六ないし三一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時四一歳の健康な女子であり、平成元年から、スナツク「マスカレード」を経営し、本件事故当時は従業員五名を使用していたこと、本件事故により長期間入院し、通院中も右足の傷害等で歩行も困難となつたために、本件事故後は、スナツクの営業ができず、右店舖はそのまま閉店することになり、その後は就労できていないこと、本件事故前の営業収入は、必ずしも明らかではないが、原告の預金口座においても毎月二〇〇万円弱程度の出入金があつたことが認められる。

(二) そして、原告は、本件事故当時の収入について、一月当たり八七万〇〇五円と主張し、その根拠として決算報告書等(甲二六ないし二九)を提出するが、他方、右報告書等は事故後に作成されたものであること、右スナツクについては、開店以来、税務申告はしておらず(原告本人)、その他、原告の収入を明確に示す客観的な証拠に乏しいこと等も考慮すると、本件においては、同年齢女子の平均収入を元に休業損害を算定することとし、原告の営業規摸や出入金の状況等からみてこれをかなり上回る収入があつた可能性が否定できないことは、本件の諸事情の一内容として慰謝料の算定において斟酌するのが相当である。

(三) そこで、本件事故当時の同年齢女子の平均賃金年収三三七万三〇〇〇円(平成四年賃金センサスによる。)を基礎として、本件事故から症状固定までの二五・三カ月分について休業損害を認めるのが相当である。

(計算式 3,373,000÷12×25.3=7,111,408)

(一円未満切捨て。以下同じ。)

5  逸失利益 一六二九万〇四〇九円(請求額五七一五万八一二六円)

前記事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、後遺障害等級九級に相当する後遺障害が残り、歩行や立ち仕事も困難となつて、従前経営していた店舗も閉店を余儀なくされたこと等からみて、原告の逸失利益としては、少なくとも前記平均年収を基礎として、症状固定した四三歳から就労可能な六七歳までの間、その労働能力の三五パーセントを喪失したものと評価するのが相当であるから、ライプニツツ係数により中間利息を控除すると、一六二九万〇四〇九円となる。

(計算式 3,373,000×0.35×13.799=16,290,409)

6  慰謝料 九五〇万円(請求額一一一六万円)

本件の受傷内容、治療期間、後遺障害の程度、職業への影響、原告が平均収入を上回る収入を得ていた可能性、被告秀一が本件事故後、確認・救護等をせずに逃走したこと等の本件の諸事情を考慮すると、慰謝料としては、入通院分二五〇万円、後遺障害分七〇〇万円の合計九五〇万円が相当である。

三1  右各損害の合計額三四〇一万七六五〇円から、前記のとおり三〇パーセントを過失相殺し、既払金九一〇万〇五三三円を控除すると、一四七一万一八二二円となる。

(計算式 34,017,650×0.7-9,100,533=14,711,822)

2  本件の弁護士費用としては、一四〇万円の範囲で被告らに負担させるのが相当である。

3  よつて、原告の請求は、一六一一万一八二二円の範囲で理由がある。

(裁判官 齋木稔久)

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